バルトシュ・ガウル監督の戦術はいかに。2連敗をどう立て直すか――名古屋・清水戦で露わになった課題と、修正への道筋【サンフレッチェ広島 2026年3月】

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「今は自分たちがやっていることを信じる時だ」

連敗後のガウル監督の言葉は、言い訳でも強がりでもなく、自分たちのサッカーに対する確信から来ているように聞こえます。では実際に何が問題で、何を修正しようとしているのか。名古屋戦・清水戦の2試合を振り返りながら、立て直しの道筋を読み解いてみます。


目次

2連敗で露わになった「2つの顔」

名古屋戦(1-2)――内容は良かったのに、なぜ負けた?

名古屋戦でガウル監督はこう語りました。

「今日は前半・後半ともに、おそらく今季ベストの試合の一つだったと思う。ただ、サッカーは継続することが重要であり、常に良いパフォーマンスができるわけではない」

実際、この試合の広島のデータは決して悪くなかった。ポゼッション、シュート数、xG(ゴール期待値)でも広島が上回る場面は多かった。では何が足りなかったか。

答えは「継続性」と「決定的な瞬間の強度」です。

前半5分、山岸祐也に先制点を許した広島は、受け身の時間帯が続きました。それでも後半50分に鈴木章斗が同点ゴールを決め、流れを引き寄せかけた。しかし後半69分、木村勇大に決勝点を叩き込まれ、惜しくも1-2で敗戦。ガウル監督が「前半には怒りを感じた」とも言われる通り、この試合では「良い時間帯」と「悪い時間帯」の落差が大きすぎた。

ガウル広島が目指す「90分間インテンシティを保つサッカー」の難しさが、如実に出た試合でした。


清水戦(1-3)――データで勝っても点が入らない理由

清水戦はさらに深刻な課題を突きつけました。

広島はこの試合もボール保持率・シュート数・xGで清水を上回っていました。それでも3失点。なぜか。

キーワードは「ボール奪取ラインの低さ」と「デュエルの敗北」です。

ガウル広島が機能するとき、ボールを奪う位置が高い。相手陣内でボールを奪い、そのまま素早く攻撃に転じる――これがガウルの設計図です。ところが清水戦では、奪う位置が自陣深くまで後退していた。

清水の吉田孝行監督が徹底したのは、「確率論的に有利なポジションを取る」という哲学です。広島の縦パスの出口を精緻に消してインターセプトを狙いながら、それ以上に機能したのがセカンドボールの回収でした。

ファーストコンタクトで弾いたボールをどちらが拾うか――この「こぼれ球争い」で清水が圧倒的に優位に立ったことが、試合の主導権を握る上で決定的でした。ガウル監督自身も試合後のインタビューで「セカンドボールを相手に取られてしまった」と明言しており、この点が敗因の核心だったと認識しています。

広島は技術の面では上回っていても、ボールが一度競り合いになると清水に拾われ、そのまま攻撃に転じられる繰り返しで「ボールを前に運べない」状況が続きました。

ガウル監督は試合後にこう語っています。「1失点目、2失点目に関しては相手の素晴らしいシュートもありましたし、我々の守備が崩壊して失点したわけではない。個人的なミスによる失点もあったが、それについて深く議論する必要はない」と。

そして核心に触れたのがこの言葉です。「前半は相手のロングボールに対し、セカンドボールを拾えるかどうかが大きな差になり、拾えなかったことで攻撃に行けず、苦しい展開になった」。

さらに悔しさを深めたのは、失点だけではありませんでした。「早い時間帯のコーナーキックから得点できていれば違ったでしょうし、2点目の取り消しについても、もしゴールが認められていれば流れは全く違ったはずです」――広島が2点目を奪うはずだったゴールが取り消されたことを、監督は明確に悔やんでいます。

「全体として決して悪い試合だったとは思いませんが、点差が開いて非常に難しい展開になってしまった」というガウル監督の言葉には、内容と結果のギャップへの複雑な思いが滲んでいます。それでも問題の本質はスコアよりも「なぜ前半にセカンドボールを拾えなかったか」にあります。


構造的な課題――「移行期」の痛み

この2連敗は、単なる調子の波ではなく、ガウル体制1年目の「移行期の痛み」と考えられます。

スキッベ前監督が4年かけて植え付けた「広島のDNA」を継承しながら、ガウル監督は新しいエッセンスを加えようとしています。その過程では、選手たちが「慣れていたやり方」と「新しく求められていること」の狭間で迷う瞬間が生まれます。

具体的には、次の2点が現在の「ずれ」として現れています。

① 守備時のボール奪取ラインのコントロール

スキッベ時代も広島はハイラインで守備をかけることを基本としていましたが、ガウルはさらに「奪った後の攻撃の設計」に重きを置いています。そのため守備ラインの設定が選手ごとに微妙にバラバラになる瞬間が生まれやすい。

清水戦で失点が重なった背景には、このラインコントロールのズレがありました。

② フォーメーション変更のタイミングと連動

名古屋戦で広島は後半から3バックを4バックに変えてペースを取り戻しました。この柔軟な変更はガウルの強みですが、選手たちが「切り替えのタイミング」をまだ完全に共有できていない部分があります。ガウル監督は「ピッチ上での方向性をある程度、選手に任せている」とも語っており、自律的な判断を求めているだけに、その精度が上がるには時間がかかります。


立て直しの3つの鍵

では、ガウル監督はどう修正してくるか。現時点でのデータと発言から読み解ける「3つの鍵」を挙げます。

鍵① 戦力の充実――離脱組が続々と戻ってくる

清水戦では東俊希と前田直輝がともに途中出場を果たし、戦列に戻っています。さらに中島洋太朗も復活し、トルガイ・アルスランの復帰も近づいています。離脱者が多かった時期を乗り越え、ようやくスカッドに厚みが戻ってきました。

特に東俊希は、ガウルの求める「高い位置からの守備参加+サイドでの推進力」を体現できる選手。彼がウィングバックとして90分間フルに機能するようになれば、ボール奪取ラインを押し上げる重要なピースとなります。前田直輝の仕掛けが攻撃に幅をもたらし、中島洋太朗の復帰が中盤のオプションを増やします。そしてトルガイ・アルスランが戻れば、ボール保持の質と安定感がさらに高まるはずです。戦力が揃い始めた今こそ、反撃の起点です。

鍵② デュエルの再強化――鈴木章斗と川辺駿の奮起

清水戦で最も目立ったのは、ボールを持っていない時の「球際の強度不足」でした。ガウルが求めるインテンシティを体現するのは、最終的には個人の気持ちの問題でもあります。

鈴木章斗は名古屋戦で1ゴールを記録し、奮闘しています。川辺駿もキャプテンとして、ここからの試合で「チームの体温を上げる」役割が求められます。

鍵③ 「信じて続ける」――ガウルの設計図を壊さない

これが最も重要かもしれません。

「今は自分たちがやっていることを信じる時だ」というガウルの言葉は、「修正の方向性は正しい、だからブレるな」というメッセージです。

移行期に監督がよくやる失敗は、結果が出ないことで急に保守的な戦術に戻ってしまうことです。リスクを排除してスコアを守りにいき、スタイルを失う。ガウルはそれをしない監督だと思います。なぜなら、彼のビジョンは「継続して成熟させること」にあるからです。


次の対戦相手は、広島を最もよく知る男が率いるチーム

かつて、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(2006〜2011年)の独特の3バックシステムが広島に浸透するまでにも時間がかかりました。そして森保一監督の下で2012年・2013年・2015年のJ1優勝を成し遂げた「広島スタイル」も、一朝一夕で生まれたものではありませんでした。

スキッベ前監督は就任1年目(2022年)からチームをリーグ3位に導き、4年間広島を率いて好成績を残してくれました。その恩師が今季から指揮を執るのが、次の対戦相手・ヴィッセル神戸です。

広島の選手の特徴を知り、広島の戦い方を誰より熟知しているスキッベ監督の神戸と戦うことは、ガウル広島にとって特別な意味を持ちます。スキッベが「知っている広島」をどれだけ超えられているか――ガウル監督の下で積み上げてきた修正と進化の成果が、この一戦で自ずと可視化されるはずです。

連敗を止めるだけでなく、ガウル広島がどんな方向へ進んでいるのかを示す試合として、27日の夜をしっかり見届けましょう。


まとめ

  • 名古屋戦・清水戦の2連敗は、「内容」と「結果」が一致しない移行期特有の痛みでもある
  • 課題の本質はボール奪取ラインの低下とデュエルの強度不足
  • 東俊希の復帰、鈴木章斗と川辺駿の奮起、そして「スタイルを信じ続けること」が立て直しの鍵
  • ガウル監督は「修正しながらも核を変えない」選択をするはずだ

次の神戸戦(3月27日)は、単なる1試合ではありません。

相手を率いるのは、4年間サンフレッチェ広島を指揮したミヒャエル・スキッベ前監督です。広島のスタイルを誰よりも知り、広島の選手たちの特徴を熟知している男が、今度は対岸から広島を見つめます。

このカードには、特別な意味があります。スキッベが築いた広島の土台の上にガウルが何を積み上げてきたか――その「現在地」が、スキッベ本人との対決という形ではっきりと映し出されるからです。修正の成果が出ていれば結果にも表れるはずですし、まだ積み上げが足りなければそれも正直に出る。

3連敗阻止だけでなく、ガウル広島がどこまで来たかを確かめる一戦として、27日の夜をDAZNの前で見届けましょう。


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