まず最初にお断りをしておく。
これから僕が書くことは、決して個人を攻撃するものではない。誹謗中傷をするつもりも一切ない。Jリーグの審判がどうあるべきか、VARはどう機能すべきか、そしてJFA審判委員会がどうあるべきか。それを問うものだということを、ご理解いただきたい。
あの日、何が起きたのか
3月27日、J1百年構想リーグ WEST第5節、ヴィッセル神戸vsサンフレッチェ広島。会場はノエビアスタジアム神戸。
前半は両チームともスコアレス。後半に入って49分、広島の木下康介が先制ゴールを決めた。広島がリードする展開。内容的にも広島が上回っていた。
試合が動いたのは84分。1点を追いかける神戸の永戸勝也が左からクロスを上げると、走り込んだジエゴがシュートを放った。ボールは枠を外れた。アウトオブプレー。
しかし、シュートの直後にジエゴと広島のGK大内一生が接触した。主審はすぐに笛を吹き、GK大内のファウルでPKを宣告した。
広島の選手たちは一斉に猛抗議した。
VARチェックが行われた。しかし、オンフィールド・レビューには至らなかった。PKで確定。
このPKを神戸が沈めて1-1の同点に追いつくと、後半アディショナルタイムの90+4分、大迫勇也が逆転ゴール。神戸2-1広島。劇的な逆転勝利――というのが神戸側の見方だ。
広島側から見れば、この試合は「疑惑のPK」で壊された。
試合後、広島のガウル監督はこう語った。
「結果は内容にふさわしくない、非常に残念」
「正直、言葉がないです」
DAZNで解説を務めた播戸竜二さんは、リプレイ映像を見てこうコメントした。
「これはちょっと……PKじゃないような気がしますけどね。ジエゴ選手が最初に蹴っているように見える」
ベルギー2部でプレーするGKポープ・ウィリアムは、Xにこう投稿した。
「マジでどうなってんだよ。どうやって守るんだよ」
この投稿の表示回数は約150万回に達した。「本当にどうなってるんだよ。これだとキーパーの仕事できないよ」「むしろ神戸のファールやん」「PKのルール変わった?」――SNSは大炎上した。
そして4月8日、JFA審判委員会が「誤審」を認めた
あの試合から12日後の4月8日。日本サッカー協会はメディア向けの「第2回レフェリー・ブリーフィング」を都内で開催した。
佐藤隆治JFA審判マネジャーは、あのPK判定について「これは反則ではない」ときっぱり言い切った。
その理由をこう説明している。
「足を上げていっているのか、足裏がコンタクトしているのか、接触するタイミングがどうだったか、(ジエゴに)ボールを蹴られた後に追加的な動きがあるかを考えたときに映像からそういったものは捉えられない」
「サッカーの中で認められた、GKにとってはフェアチャレンジと考える」
さらに、ジエゴがシュートしたボールはそのまま枠を外れてアウトオブプレーになっている。つまりジエゴがボールを再びコントロールできる状況ではなかった。GKがシュートブロックを試みた自然なプレーの中で起きた接触であり、ノーファウルにすべきだった――というのがJFA審判委員会の結論だ。
佐藤マネジャーはさらに踏み込んだ。
「GKとしてのプレーイングディスタンスがフィールドプレーヤーとは違う。手も使える大きな中でのアクションとして本当に反則とすべきか考えたときに、我々はそうではない」
つまり、あの試合は誤審によってゲーム展開が大きく変わったのだ。
木下の先制ゴールで広島がリードしていた。あのPKがなければ、広島が1-0で勝っていた可能性は十分にある。少なくとも、あの同点ゴールは存在しなかった。そして大迫の逆転ゴールも生まれなかったかもしれない。
審判の方々にはまず認識してほしい。一つの誤審が、試合の結果を左右する。それがいかに重大なことであるかを。
ミスは起きる。だからVARがある
人がやることである以上、ミスはついてくる。それは仕方のないことだ。
もちろん、Jリーグの審判クラスになれば、そのミスは少なくなるはずだし、試合の行く末を左右するようなミスは本来あるべきではない。
それでもミスは起きる。
だからこそVARが導入されたのではないか?
VARは、主審の判断を補完し、明らかなミスを防ぐための仕組みだ。それが機能してこそ、選手もサポーターも安心して試合に集中できる。
一番の問題は「VARを経ても覆らなかった」こと
しかし、今回の最大の問題点はここだ。
VARチェックを経て、オンフィールド・レビューには至らず、PKで確定した。
主審の立ち位置からは接触が大きく見えたのかもしれない。それは仕方がない。ピッチ上では一瞬の出来事だ。だからVARがある。
なのに、VARが機能しなかった。
佐藤マネジャー自身がこう認めている。
「(VARは)PKという判断を覆すだけのシーンなのか、非常に悩んだとは思う」
しかし結論として、VARも介入すべきだったとの見解を示した。つまり、主審もVARも、両方がミスだったということだ。
普通のサッカーファンが映像を見ても、PKの要素はまったくない。DAZNの解説者も首をひねった。海外でプレーするGKが「どうやって守るんだよ」と声を上げた。SNSは大炎上した。それなのに、VARチェックを経てPKで確定した。
なぜか。
ここが一番の問題だ。
なぜ「PKで確定」してしまったのか
推測される理由は2つある。
1. ルールの理解不足、あるいは誤った運用
佐藤マネジャーは「GKとしてのプレーイングディスタンスがフィールドプレーヤーとは違う」と説明した。GKは手も使える。体を大きく広げてシュートブロックに向かう。その中で起きた接触を、フィールドプレーヤー同士の接触と同じ基準で裁いてはいけない。
この判断基準を、主審やVARの担当者は正しく理解していたのか。あの映像を見て、あれをPKと判断したのだとすれば、率直に言って「えっ、本当にそんなことも分からないの?」というレベルの話だ。
僕はマーケティングの仕事をしているけれど、一緒に仕事をするメンバーの中に「えっ、本当にそんなことも知らないの?」という人がたまにいる。プロとして当然知っているべきことを知らない。あの判定を見たとき、正直同じことを感じた。
2.「空気」に流された判断
もう一つ。これはよくSNSで言われるような、特定のスポンサー企業への忖度のことではない。絶対にそういうことを言っているのではない。
そうではなくて、仕事の中で、「いやこれはまあこうじゃないの」という空気の中で物事が決まってしまうこと、皆さんにも心当たりがないだろうか。
主審が「PKだ」と判断した。VARの担当者はそれを見て、「PKという判断を覆すだけのシーンなのか」と悩んだ。佐藤マネジャー自身がそう説明している。つまり、「PKにしようという前提」でVAR映像を見てしまった可能性がある。
この人がPKだと言うんだから、まあPKかな――。
もちろん、この2つは僕の推測に過ぎない。しかし、十分にあり得ることだと思っている。
本当の問題は、もっと深いところにある
ただ、原因が上のどちらであったとしても、僕が本当に問題だと思っているのは別のことだ。
今回、JFA審判委員会がミスを認めたこと自体は良かったと思う。何も発表せず、臭いものに蓋をしてしまうのが一番よくない。その点は評価したい。
しかし、このままでは審判の技術は上がっていかない。
間違いなく、このようなミスを何度も繰り返すことになる。
その理由は一つだ。
「なぜPKで確定したのか」、その判断プロセスがまったく公表されていないからだ。
「誤審でした」だけでは、何も変わらない。
担当した主審は、あの瞬間、何を見て、何を根拠にPKと判断したのか。VARの担当者は、どの映像を、どの角度から確認し、どういう思考回路で「覆すほどではない」と結論づけたのか。
そこを明らかにしなければ、何がどう間違っていたのかが分からない。分からなければ、改善のしようがない。
おそらく内部では聞き取り調査はしているのだと思う。でも、それを公表しましょうよ。
判定理由をその場で説明せよ
なんなら、VARで判定が確定した時点で、その理由を現場で説明すべきだ。
ヨーロッパではそういう方向に進んでいると聞いている。審判が判定理由をスタジアムで明示する。選手も、スタッフも、サポーターも、なぜその判断がなされたのかを理解できる。
Jリーグでもそうすべきだ。
「なぜPKなのか」「なぜPKではないのか」。その理由をしっかりと、選手たちやスタッフたち、そしてサポーターの前で発表する。
それをやらない限り、Jリーグの審判は同じミスを繰り返す。そう僕は思っている。
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