正直に言います。今のサンフレッチェ広島が、たまらなく面白い。
3連敗中です。WEST6位です。優勝は現実的に厳しくなりました。
SNSを見れば「ガウルを解任しろ」「ポゼッションが合っていない」「降格が見える」と騒がしい。気持ちはわかります。勝ってほしい。当然です。
でも、僕はここ数試合のサンフレッチェ広島を見ていて、心の底からワクワクしています。
先日の神戸戦。シュート19本、xG 2.20。枠内シュート13本。90分間、ほぼ一方的に攻め続けました。結果はPK負け。勝てませんでした。でも、あの試合の中身を見て「つまらなかった」と思った人がいるでしょうか。
僕は思いませんでした。むしろ、「このサッカーが完成したら、どこにも負けないんじゃないか」と思いました。
今のサンフレッチェ広島には、優勝争いとは別の次元で、見る価値がある。なぜそう思うのかを書きます。

ガウルが語った、日本人選手の「100%問題」
ガウル監督は、日本に来て驚いたことがあると語っています。
日本の選手は、監督の指示を100%忠実に実行しようとする。
ドイツの選手なら、監督が「左サイドから崩せ」と言ったら、基本は左から行くけれど、目の前に右からのチャンスが見えたら迷わず右を選ぶ。70%は指示に従い、30%は状況判断で柔軟に変える。それがドイツの選手の「普通」です。
ところが日本の選手は違う。「左から」と言われたら、右にどれだけスペースが空いていても左から行こうとする。100%忠実。言い換えれば、指示されていない状況に出くわしたとき、自分で判断して動くことへの躊躇がある。
これは批判ではありません。日本人の真面目さ、忠実さ、規律の高さの裏返しです。世界が驚く日本サッカーの組織力は、この忠実さから生まれている。
でも、ガウルが目指すサッカーには、この「100%問題」が壁になります。
だから前半がひどくて、後半が別チームになる
この「100%問題」が、今のサンフレッチェ広島の試合を見ていると、はっきりわかる場面があります。
前半——試合が始まると、選手たちは練習で仕込んだ形を忠実にやろうとします。でも相手も当然対策してくる。想定外の状況が起きたとき、「じゃあどうする?」の判断が遅れる。だから前半はぎこちなくなり、デュエルで後手に回り、ボールを失って失点する。
後半——ハーフタイムでガウル監督が修正を入れる。「こう来たらこうしろ」と具体的な指示が加わる。すると選手たちは再び100%忠実に実行し、今度はそれが相手の弱点を突く形になる。後半は別チームのように攻め立てる。
岡山戦の前半は「闘う姿勢がなかった」とガウル自身が認めました。でも後半は猛攻を仕掛けた。福岡戦は2-0でリードした後に追いつかれた。神戸戦は前半にきっちり先制し、後半スキッベの修正に対応しきれなかった。
波があるんです。試合の中で、試合ごとに、パフォーマンスに大きな波がある。
でもこの波は、選手たちが「自分で判断して動く」ことを学んでいく過程で必然的に生まれるものです。ガウルが求めているのは、100%の忠実さではなく、70%の構造と30%の即興。その「30%の即興」を身につける途中だから、波が生まれる。
神戸戦で見えた、「現代型トータルフットボール」の片鱗
そして、あの神戸戦(第15節)です。
xG 2.20。シュート19本。枠内13本。何が凄かったかというと、攻撃パターンの多彩さです。
パターン1:ビルドアップからの崩し
塩谷司、山﨑大地、佐々木翔の3バックからGK大迫敬介を含めた後方からの組み立て。川辺駿を経由して、中島洋太朗や中村草太のシャドーに縦パスを通す。相手のプレスをいなしながら、前進していく。
パターン2:ロングフィード一発
かつて青山敏弘が佐藤寿人に通したような、DFラインの裏を一本のパスで破るプレー。塩谷司には、このパスを出せるだけの足技があります。今の広島には、ショートパスで崩すだけでなく、一気に裏を取るロングフィードという武器がある。
パターン3:東俊希のサイドアタック
37分のカットイン右足シュート、43分のクロスからの先制アシスト。東俊希が左サイドでボールを持ったとき、相手は「カットインか、縦か、クロスか」を読めない。その不確実性が攻撃の推進力になっています。
パターン4:ポゼッションからのプレス回避
相手がハイプレスに来たとき、慌てず後方でボールを回し、相手の陣形が崩れた瞬間に一気に縦を突く。これはガウルの「コントロール」の核です。
これが「トータルフットボール」だと思う理由
ここで僕が言いたいのは、今のサンフレッチェ広島は、一つのパターンに頼っていないということです。
ビルドアップでじっくり崩す。ロングフィードで一発で裏を取る。サイドから質的優位を作る。ポゼッションで相手を走らせて疲弊させる。そしてプレスで奪って速攻。
これらのすべてを、試合の状況に応じて使い分ける。
かつてのクライフのアヤックスが「全員が全ポジションをこなせる」ことをトータルフットボールと呼びました。ガウルが目指しているのは、それを攻撃パターンに当てはめたものだと僕は感じています。全ての攻撃手段を持ち、状況に応じて最適なものを選べるサッカー。
かつて青山敏弘から佐藤寿人への一本のロングパスで点を取っていた時代がありました。あれは美しかったけれど、一つのパターンに依存していた面もある。
今のガウルのサンフレッチェは、あのロングパスも使えるし、ショートパスの崩しも、サイドからのクロスも、カウンターも、ポゼッションで支配することもできる。攻撃の引き出しが、これまでで最も多い。
だからxG 1.859(1試合平均)を叩き出しているんです。WESTで最もチャンスを作れるチーム。それは一つの必殺技があるからじゃなく、すべてのパターンを持っているからです。
「100%問題」が解けた時に何が起きるか
今は、選手たちがこの「多彩なパターン」を忠実に実行しようとして、時に硬くなっている段階です。
でも、これが「70%の構造+30%の即興」で運用されるようになったら——。
つまり、塩谷がビルドアップしている最中に「いや、今は裏が空いてる」と判断してロングフィードを選べるようになったら。東俊希が「今日はカットインより縦だ」と試合の流れの中で自分で切り替えられるようになったら。中島洋太朗がパスの出しどころに詰まったとき、仕込まれたパターンではなく自分の感覚で「ここだ」と判断できるようになったら。
その瞬間、サンフレッチェ広島は手がつけられないチームになります。
神戸戦は、その片鱗が見えた試合でした。前半に東の仕掛けから先制し、90分間で19本のシュートを浴びせ続けた。あの試合では確実に、選手たちの「自分で判断する」場面が増えていました。
残り試合、全部勝てると思っています
楽観的すぎると笑われるかもしれません。
でも、あのxG 2.20のサッカーを見た後に、「このチームは弱い」と思える人がいるでしょうか。
チャンスを作る力は圧倒的にあります。WESTで1位です。問題はフィニッシュだけ。そしてフィニッシュの問題は、戦術的な構造の問題ではなく、決定機での集中力や心理的な問題です。一つ入れば、堰を切ったように決まり始める——そういう類のものです。
WESTの順位表を見てください。1位名古屋から9位福岡まで、勝ち点差はたったの8。一つ勝てば順位が3つ上がるような混戦です。3連敗していても、まだ何も終わっていない。
そして何より、このサッカーが完成に向かっていく過程そのものが面白い。
SNSの人たちへ
ガウルを批判している人たちの多くは、90分の結果だけを見ています。スコアだけを見て「負けた。ダメだ」と言っている。
でも、試合の中身を見てほしいんです。
シュート数。枠内シュート数。xG。ボール奪取位置。攻撃パターンの多彩さ。前半と後半の修正力。若手の成長。
このチームは確実に進化しています。ガウルが来てから、明らかにサッカーの質が変わっています。結果がついてきていないだけで、中身は劇的に良くなっている。
結果は、ある日突然ついてきます。それまで待てるかどうか。
僕は待てます。このサッカーを見ていたいから。
結びに——優勝争いとは別の、もう一つの楽しみ
百年構想リーグ初年度。東西分割。全試合PK決着。従来とはルールが違う中で、サンフレッチェ広島はまったく新しいサッカーに挑戦しています。
ガウル監督が描く「現代型トータルフットボール」——すべての攻撃パターンを持ち、状況に応じて使い分け、選手が自分で判断して動くサッカー。
その完成を、リアルタイムで見届けられること。
優勝争いの行方より、このチームが何になろうとしているかを見届けること。
それが、今サンフレッチェ広島を応援する最大の楽しみだと僕は思っています。
残り試合、全部勝ちましょう。僕はそう信じています。
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