セバスティアン・アレー。
もう多くの人がご存知だと思いますしそう呼んでいると思いますが。この人の名前は、綴りだと「Haller」です。英語読みなら「ハラー」になりそうなところですが、フランス語では語頭のHを発音しない。フランス生まれで、代表はコートジボワール。どちらもフランス語の国です。だから「アレー」。ドイツやイングランドにいた頃は、日本のメディアでも「ハラー」と書かれることが多かったんですけどね。クラブは最初から「アレー」で発表しています。
細かい話です。でも、彼が広島で背負うのは、彼自身の名前ですから。
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開幕前、僕がいちばん見たかったのは、アレーが前線でボールを収めて、最後は自分で決める。そんな場面だったんです
7月24日の加入会見で、栗原圭介強化部長はアレーを獲った理由を二つ挙げました。一つは得点力。もう一つが、前線でボールを収めて、攻撃の起点になること(広島アスリートマガジン)。
決める力と、収める力。僕はこの二つが、一人の中にあるところが気になったんです。特に、収めるほうが。
なんで「収める」がそんなに気になったのか。当時の広島の数字を並べると、分かってもらえると思います。
スキッベ監督の最後のシーズンだった2025年のJ1。広島は38試合で46得点、28失点。この28失点はリーグ最少でした。
ガウル監督の1年目、この春の百年構想リーグ。18試合で29得点、21失点。
1試合あたりに直すと、得点は1.2から1.6に増えて、失点は0.7から1.2に増えた。
点は取れるようになった。その代わり、守れなくなった。
(百年構想リーグは引き分けなしのPK決着で、東西に分かれた大会でしたから、単純には比べられません。それでも傾向ははっきりしています)
じゃあ、なぜ失点が増えたのか。中国新聞がオーストリアの1次キャンプを伝えた記事によると、目立ったのは、守る人数はそろっているのに失点してしまう場面だったそうです。そのキャンプで取り組んでいたのが、ペナルティエリアの中の守り方、4バック、そして前線からのプレスの強さ。この三つです。
僕が引っかかったのは三つ目です。
プレスは一回かけたら終わり、じゃないんですよね。かわされたら、並び直して、もう一回かける。その並び直す数秒をどこで作るか。前線でボールが収まれば、その数秒が生まれる。収まらずに跳ね返ってきたら、並び直す前に次の対応に追われる。
190センチの背中がボールを収める。そのあいだに、チームが押し上がる。そして最後は、ゴール前に入っていって、自分で決める。
開幕前の僕は、その場面ばかり想像していました。収めることが守備の助けにもなる、というのは僕の仮説で、クラブがそう説明しているわけではありません。念のため。
で、8試合が終わった。答え合わせをしたら、ちょっと出来すぎなくらいでした
8月15日、埼玉スタジアムでの浦和戦。前半16分の先制点は、後ろからパスをつないで、途中でアレーが右へ展開。そこから中野就斗、川辺駿とつないで、最後は鈴木章斗の左足ボレー(サッカーキング)。アレーは前半からポストプレーで起点になって、空中戦でも存在感を見せていた、とフットボールチャンネルも書いています。ちなみにこの先制点、8月のJ1月間ベストゴールに選ばれています。
そして後半16分、コーナーキックからの混戦で、こぼれてきたボールに右足で詰めて、来日初ゴール(フットボールチャンネル、ゲキサカ)。
収めて、決めた。
9月2日の名古屋戦では、開幕戦以来のベンチスタートから出てきて、試合終了間際に左足で3点目。ホームでの初ゴールです。この試合ではアシストも記録しています(フットボールチャンネル)。試合後は「やっとシーズンが始まった」と笑ったと、中国新聞が伝えています。9月6日の岡山戦でも決めて、2試合連続。初めてのフル出場も果たしました。
開幕から6試合で3ゴール1アシスト(フットボールゾーン)。
そして、チームの数字です。第8節を終えて、広島は8試合で20得点、6失点。1試合あたり2.5得点、0.75失点。6失点は、神戸の5失点に次いでリーグで2番目に少ない。
点も取れて、守れてもいる。
2025年の堅さと、百年構想リーグの攻撃力を、両方持っている。そういうことになります。
……と、ここで「アレーのおかげです」と言い切りたいところなんですが、それはやめておきます。4バックも、ゴール前のマークも、キャンプで仕込んだものが実を結んでいるはずですし、アレーが出ていない試合でも広島は勝っている。数字だけで、誰のおかげかは分かりません。
でも、あの場面を想像していた身としては、まあ、ちょっとうれしい。
ところが9月11日、練習にアレーの姿がなかったんです
中国新聞によると、アレーは9月11日の全体練習に参加しませんでした。ガウル監督は、けが人のことは隠す必要がない、と前置きしたうえで、翌日のC大阪戦にアレーはメンバー入りしない見込みだと話したそうです。誰が代わりに出るのかは言わずに、それで相手が悩めばいい、と笑いながら。
このガウル監督、なかなかの役者です(小声)。
けがの詳しい内容は、僕が調べた範囲では発表されていません。なので、ここで勝手な推測はしないでおきます。
分かっているのは、C大阪戦にも、9月19日の福岡戦にも、アレーの名前がメンバー表になかったこと。
それでも広島は勝っています。C大阪戦は鮎川峻の1トップがはまって、6ゴール。福岡戦は東俊希のゴールで0-1。
アレーがいなくても勝てている。
これは頼もしいことです。でも、だからこそ思うんですよね。ここにアレーが戻ってきたら、どうなるんだろう、って。
ピッチの外のアレーは、ほぼグルメリポーターなんですよ
ご存知の方も多いと思いますが、アレーは自分のXで、日本での暮らしをどんどん発信しています。
たこ焼き。お好み焼き。コンビニのチキン。食レポや買い物の様子を動画にして、日本語の字幕まで付けている。その字幕の翻訳がちょっと怪しいところも含めて、日本のファンにも海外のファンにも大人気なんです(フットボールゾーン)。日本のファンからは「やってることはほぼグルメリポーター」なんて声まで出ているそうで。
そういえば浦和戦で初ゴールを決めたあと、ゴールの理由を聞かれたアレーは、前の日にお好み焼きを食べたから、と答えています(ゲキサカ)。冗談なのか本気なのか。たぶん半分くらい本気なんだろうな。
加入会見でも、広島を選んだ理由の一つとして、奥さんの好きな色が紫だったことを挙げて、会場を笑わせていました(広島テレビ)。
この人、広島を楽しむ気が満々なんです。
でも、ここで少しだけ、この人の4年前の話をさせてください。
2022年の夏、アレーはドルトムントに移ったばかりのプレシーズンで体の不調を訴えて、検査で精巣に悪性の腫瘍が見つかりました。摘出の手術と化学療法。シーズンの半分をピッチの外で過ごして、2023年1月に戻ってきた。
そして2024年2月。開催国コートジボワールの代表として、アフリカネイションズカップの決勝で、ナイジェリアを相手に81分、逆転のゴールを決めています。4大会ぶり、3度目の優勝。
そういう道を通ってきた人が、いま広島で、お好み焼きを食べて笑っている。
それを、世界中のファンに向けて発信している。
前のコラムで、「自分たちの街にこのクラブがあることが、誇りだと思えるように」と書きました。自分たちの街のお好み焼きを、世界に向けて食べてみせてくれる選手がいる。これも、その誇りのひとつの形なんじゃないかと思うんです。
けがで試合に出られないあいだも、Xの中のアレーは、ちゃんと広島にいる。
次は、ゴールをたくさん見せてほしい。そして広島を、優勝に連れていってほしいんです
J1は第8節のあと、代表ウィークとカップ戦をはさんで、しばらくリーグ戦がありません。広島の次のリーグ戦は、10月11日(日)の東京ヴェルディ戦(味の素スタジアム)です。
いま広島は勝ち点17の3位。首位の神戸とは勝ち点2差です。上位5チームが勝ち点2の中にひしめいている。
焦らなくていい。このあいだに、しっかり体を整えてほしい。
そして戻ってきたら、僕が見たいのは、あの三人との絡みです。
浦和戦のあのボレーで、8月の月間ベストゴールに選ばれた鈴木章斗。C大阪戦で1トップを任されて、ハットトリックで応えた鮎川峻。そして、前線でどこにでも顔を出す加藤陸次樹。
アレーが前線で収めて、鈴木章斗が走り込む。アレーが相手のセンターバックを引きつけて、鮎川が裏を取る。加藤がこぼれ球を拾う。
想像するだけで、ちょっとにやけてきます。
いや、にやけているだけじゃ足りないな。
6試合で3ゴール。もちろん立派な数字です。でも、アヤックスでエールディヴィジの得点王になった人です。まだまだ、こんなものじゃないはず。(キッパリ)
リーグ戦は、まだ始まったばかりです。
広島が最後にJ1を獲ったのは2015年。もう11年も前のことになりました。いまの広島は、点も取れて、守れてもいる。そこに、収めて決める190センチが戻ってくる。
そろそろ、いいですよね。
アレーのゴールで、広島を優勝に連れていってほしい。ピースウイングを紫で埋めて、シーズンの最後に、アレーが笑っている。奥さんの好きな色に囲まれて。
気が早い? 知ってます(小声)。
さて、次のXでは、何を食べているかな。
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参考・出典
- 広島アスリートマガジンWEB(2026年7月24日 アレー加入会見レポート/栗原圭介強化部長コメント)
- 広島テレビ(2026年7月24日 アレー加入会見/本人コメント)
- Jリーグ公式サイト(2025シーズンJ1チームスタッツ/百年構想リーグ試合結果/2026/27 J1第8節終了時点の順位表)
- ゲキサカ(J1百年構想リーグ WESTグループ最終順位表)
- 中国新聞デジタル(矢野匡洋記者:オーストリア1次キャンプレポート、2026年7月20日)
- サンフレッチェ広島オフィシャルサイト(試合日程/ルヴァンカップ2回戦・天皇杯3回戦のお知らせ)
- サッカーキング「広島が開幕2連勝! アレー初得点に鈴木章斗2発、埼スタで圧巻4ゴール…浦和は2戦8失点で連敗」(2026年8月15日)
- フットボールチャンネル「『必ずチャンスが来る』サンフレッチェ広島の新エース・アレーがJ初ゴールで示したもの」(2026年8月16日)
- ゲキサカ「『沢山の国旗が見えた』CL決勝も経験した広島の大物助っ人FWアレー、J初先発初ゴールの要因は『昨日お好み焼きを食べたから』」(2026年8月15日)
- 中国新聞デジタル「アレー会心『一番決められる形』【J1】9月2日」
- 中国新聞デジタル「アレー、6戦3発の衝撃 サッカーIQの高さと底知れぬポテンシャル【サンフレ 森﨑浩司の熱紫線】」
- 中国新聞デジタル「アレー欠場もガウル監督は不敵な笑み『相手が悩めばいい』 9月12日C大阪戦へ情報戦」
- 中国新聞デジタル「鮎川1トップが的中 6ゴール奪い攻守に圧倒 9月12日C大阪戦【サンフレ 森﨑浩司の熱紫線】」
- フットボールチャンネル「救世主到来?Jリーグ、加入直後から輝きを放つ新加入選手(4)」(2026年9月)
- アスリートマガジンWEB「広島ーセレッソ大阪戦スタメン発表」(2026年9月12日)
- サカノワ「【福岡vs広島】スタメン発表」(2026年9月19日)
- フットボールゾーン「秋春に移行後初…月間ベストゴール賞決定」(2026年9月10日)
- フットボールゾーン「世界で話題…J助っ人の“日本紹介”が『面白すぎる』 海外ファンが大注目」(2026年9月)
- サッカーキング(アフリカネイションズカップ2023決勝レポート)
- スポーティングニュース日本版(アレーの闘病と復帰の経緯)
- サンフレッチェ広島オフィシャルサイト「鈴木章斗選手、『明治安田Jリーグ 月間ベストゴール』8月度(J1)受賞のお知らせ」
