J1百年構想リーグ WESTグループ第12節
2026年4月25日(土)16:00キックオフ
エディオンピースウイング広島|入場者数:25,547人

サンフレッチェ広島 2-1 セレッソ大阪
(前半0-1 / 後半2-0)
得点:12分 チアゴ・アンドラーデ(C大阪)/ 86分 オウンゴール / 90+3分 木下康介(PK)
二人の「外国人監督」が激突した90分間
この試合は、単なるリーグ戦の1試合ではありませんでした。
バルトシュ・ガウル、38歳。アーサー・パパス、46歳。
それぞれのクラブを率いる二人の外国人監督が、90分間の采配で直接対決した——そう表現した方がこの試合の本質に近いと思います。ガウルは2026シーズンから広島を、パパスは2025シーズンからC大阪を指揮しており、ともにクラブに自分の色を浸透させている最中です。
結果は広島の逆転勝ち。しかし、前半はパパスの設計図が完璧に機能し、後半はガウルの修正力が上回りました。45分ずつ、まるで別の試合を見ているようでした。
この記事では、試合のスタッツや経過は速報レビューに譲り、二人の監督が何を考え、どう動いたのかに焦点を当てて振り返ります。
ガウル監督とは何者か——プロ選手歴ゼロの「理論派」
バルトシュ・ガウル(Bartosch Gaul)。1987年10月5日、ポーランド北部ビトゥフ生まれ。ドイツとポーランドの二重国籍を持つ38歳です。
この監督の経歴で最も目を引くのは、プロ選手としてのキャリアが一切ないということです。20歳でシャルケ04のU17アシスタントコーチに就任して以来、指導者一本でキャリアを積み上げてきました。
| 期間 | クラブ | 役職 |
|---|---|---|
| 2008-2015 | シャルケ04(ドイツ) | ユース各年代の指導者 |
| 2015-2018 | マインツ05(ドイツ) | ユース監督 |
| 2018-2022 | マインツ05 | セカンドチーム(U-23)監督 |
| 2022-2023 | グールニク・ザブジェ(ポーランド1部) | トップチーム監督 |
| 2024-2025 | RBライプツィヒ(ドイツ) | ユースパフォーマンス責任者→トップチームAC |
| 2026- | サンフレッチェ広島 | 監督 |
シャルケU19時代には、アシスタントコーチとして後にドイツ代表となるティロ・ケーラーを擁するチームのドイツ選手権優勝に貢献しています。グールニク・ザブジェでは、元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキが所属するクラブを指揮しました。そしてRBライプツィヒでは、U15〜U19のパフォーマンス責任者を経てトップチームのアシスタントコーチに昇格。ドイツサッカーの最前線で育成と戦術の両方を学んできた「理論派」です。
広島の栗原圭介強化部長は、招聘の経緯をこう語っています。
「AIデータを含めて過去3、4年のサンフレッチェのスタイルを分析する中で、同じような数値が出ているサッカーをしている指導者という括りの中で候補として上がってきた」
つまり、スキッベ前監督が築いた「後方からつなぐ」スタイルを継承しつつ進化させる——それがガウル招聘の目的でした。
ガウルの哲学:「戦術の前に、インテンシティ」
就任会見でガウル監督はこう語りました。
「結果と若い選手の育成を追い求めていくのが私のビジョンです」
そして今日の試合後に語ったこの言葉こそ、彼の哲学の核心です。
「戦術の前に、まずはインテンシティや球際の強さが必要不可欠」
「後方からつなぐ」ポゼッションサッカーを標榜しながらも、その前提としてインテンシティ(プレーの強度)を最優先に置く。ここがガウル監督の最大の特徴です。美しくつなぐだけではなく、球際で戦い、走り切り、その上でつなぐ。戦術は、インテンシティの上に成り立つもの——そういう思想です。
パパス監督とは何者か——ポステコグルーの遺伝子を受け継ぐ「攻撃の申し子」
アーサー・パパス(Arthur Papas)。1980年2月12日、オーストラリア・メルボルン生まれ。ギリシャ系の46歳です。
パパス監督のキャリアで最も重要なのは、2019年の横浜F・マリノスでの経験です。
| 期間 | クラブ | 役職 |
|---|---|---|
| 2009-2011 | オーストラリアU-18代表 | アシスタントコーチ |
| 2019 | 横浜F・マリノス | コーチ(J1優勝) |
| 2020 | 横浜F・マリノス | ヘッドコーチ |
| 2021 | 鹿児島ユナイテッドFC | 監督 |
| 2021-2023 | ニューカッスル・ジェッツ(豪州) | 監督 |
| 2023-2024 | ブリーラム・ユナイテッド(タイ) | 監督(首位に押し上げ後、2024年3月解任) |
| 2025- | セレッソ大阪 | 監督(2024年12月就任、2年目) |
ポステコグルー(元トッテナム監督)のもとで横浜F・マリノスのJ1優勝に貢献した経験は、パパスの指導哲学に決定的な影響を与えています。「ポステコグルーの遺伝子」と言ってもいいでしょう。
その後、タイのブリーラム・ユナイテッドでは8連勝を含む好成績でチームを首位に押し上げましたが、2024年3月にクラブとの方針の違いから解任されています(チームはその後、後任のもとでタイリーグ1を制覇)。挫折を乗り越え、2024年12月にセレッソ大阪の監督に就任しました。
パパスの哲学:「アタッキングフットボール」
就任会見でパパス監督はこう語っています。
「ハードワーク、強度、そしてどのような場面でも、誰にでも攻めていく姿勢をチームに根付かせたい」
「選手たちが持っている技術にアタッキングのメンタリティーを植え付けたい。ボールを持っていない時でもアグレッシブに戦い、攻撃的な戦い方を落とし込みたい」
「アタッキングフットボール」。ポステコグルー譲りのこの思想は、攻守両面でアグレッシブであることを求めます。ガウルの「インテンシティ」とパパスの「アタッキングフットボール」——言葉は違いますが、実は根底にある思想はかなり近いのです。
では、思想が近い二人の監督が、90分間でどう戦ったのか。
前半:パパスの設計図が完璧に機能した45分間
前半のピッチを支配していたのは、C大阪でした。
C大阪の田中駿汰は試合後に「前半は攻守に今季でもベストに近い内容だった」と語り、石渡ネルソンも「今日の前半は神戸戦の前半と同じくらい最高だった」と振り返っています。
パパス監督の設計は明確でした。
- 高い位置からプレスをかけて、広島のビルドアップを潰す
- 奪ったらチアゴ・アンドラーデを起点にカウンター
- 1点取ったら、粘り強い守備でリードを守る
12分にアンドラーデが先制。C大阪はこの1点を手にしたことで、ますます自信を持ってプレーしました。パパス監督が試合前に語っていた「裏と足元を使い分けながら相手のディフェンスラインを揃えさせない」戦術が、前半に関しては完璧にはまっていたのです。
ガウルが認めた「寄せの遅れ」
一方のガウル監督は、前半をこう振り返っています。
「我々は最初の30分、インテンシティや1対1のデュエルで後手に回り、相手に主導権を握られて苦しい展開になりました」
そしてその原因を、具体的に分析しています。
「守備の構造自体に問題があったわけではありません。原因は、相手への寄せが『1cm、1m、ハーフメーター』遅れてしまったことです」
「C大阪のようなクオリティの高い相手に対し、アプローチが1歩でも遅れると簡単にボールを動かされてしまいます」
「1cm、1m、ハーフメーター」。この表現に、ガウル監督の分析眼が凝縮されています。戦術が間違っていたのではなく、実行の強度が足りなかった。フォーメーションや配置の問題ではなく、一人一人の寄せのスピードの問題だった——その明確な判断が、ハーフタイムの転換につながります。
ハーフタイム:ガウルの「100%宣言」
前半を0-1で折り返した広島。ガウル監督はロッカールームで選手たちに何を伝えたのか。
「前半の戦いぶりについて、何が足りなかったのかをはっきりと伝えました」
そしてその内容が、これです。
「『どんな強いチームでも、90%や95%の力では絶対に勝てない。100%のインテンシティでプレスをかけ、デュエルで戦うことが大前提だ』と」
「90%では絶対に勝てない」——この言葉の凄みは、裏を返せば「前半は90%だった」と明言していることです。選手を責めるのではなく、何がどれだけ足りなかったのかを数字で示す。理論派ガウルらしい、極めて明晰なハーフタイムのアプローチです。
そして選手たちの反応を、ガウル監督はこう評価しています。
「選手たちは後半の立ち上がりからそのメッセージをピッチで完璧に体現し、素晴らしいリアクションを見せてくれました」
実際、後半の広島は別チームでした。前半に「1cm」遅れていた寄せが修正され、インテンシティが格段に上がりました。xG 2.70の大半は後半に積み上がったものです。
後半:ガウルの「段階的交代」vsパパスの「逃げ切り設計」
ガウルの3波——前線を総入れ替えする勇気
ガウル監督の後半の采配は、計画的で段階的でした。
| 時間 | OUT | IN | 狙い |
|---|---|---|---|
| 56分 | 中島洋太朗 | 中野就斗 | 中盤のエネルギー補充 |
| 56分 | トルガイ・アルスラン | 木下康介 | 高さという新兵器の投入 |
| 72分 | 鈴木章斗 | 前田直輝 | 仕掛けと裏抜けの追加 |
| 72分 | 加藤陸次樹 | ジャーメイン良 | 身体能力で殴る |
| 85分 | 松本泰志 | 小原基樹 | ドリブルでのギアチェンジ |
56分に高さ、72分に推進力、85分にドリブル。波状攻撃のように、異なるタイプの脅威を次々と投入していく。C大阪の守備陣は、対応相手が10分おきに変わるストレスにさらされ続けました。
ガウル監督は前田直輝の起用についてこう語っています。
「彼が日頃から素晴らしいトレーニングを続けていたからです。裏への抜け出しや仕掛けなど、彼が持つ攻撃のバリエーションが必要でした」
これは試合当日に思いついた策ではありません。スタメン発表記事の段階で、ベンチに攻撃カードを4枚(ジャーメイン、木下、前田、小原)積んだ意図は読み取れていました。「後半勝負」は、最初から設計されていたのです。
パパスの78分——逃げ切りのための「二枚替え」
一方のパパス監督の後半の采配はこうでした。
| 時間 | OUT | IN | 狙い |
|---|---|---|---|
| 46分(HT) | チアゴ・アンドラーデ | 櫻川ソロモン | フィジカル管理(5連戦対策) |
| 63分 | 本間至恩 | 上門知樹 | 前線の活性化 |
| 78分 | 奥田勇斗 | クールズ | 守備固め |
| 78分 | 柴山昌也 | 香川真司 | ゲームコントロール |
| 88分 | 中島元彦 | 横山夢樹 | 最終盤の補強 |
注目すべきは78分の二枚替えです。クールズで守備を固め、香川真司でボール保持の安定を図る——1-0を守り切る、典型的な「逃げ切り設計」でした。
パパス監督のハーフタイムの交代にも注目です。先制点を決めたアンドラーデを、前半だけで下げました。パパス監督はその理由を「シンプルに、フィジカルの状態。5連戦を考えている」と説明しています。先制点を決めたエースを下げてでも、連戦を見据える。目の前の1勝よりも、5連戦のマネジメントを優先した判断です。
これ自体は合理的な判断です。問題は、78分に入ったもう一人の選手でした。
クールズの15分間——采配の明暗が分かれた瞬間
78分にピッチに入ったディオン・クールズ。守備を固めるための投入でした。
86分——広島の波状攻撃の中、ゴール前でクールズがクリアしきれず、ボールが自陣ゴールに吸い込まれます。オウンゴール。1-1。
90+3分——広島がゴール前に押し込む場面で、クールズのハンドがVARで確認され、PKの判定。木下康介がこれを決めて、2-1。逆転。
投入からわずか15分で、OGとPK献上の2失点に絡む。
守備固めの交代が、守備を崩壊させてしまった。パパス監督にとって、この交代は悔やんでも悔やみきれないものだったはずです。
ただ、僕はクールズ個人を責めるべきではないと思います。
問題は、78分の時点でC大阪の守備陣全体がすでに限界に近づいていたことです。ガウル監督の段階的な前線入れ替えによって、C大阪のディフェンスラインは56分から22分間、異なるタイプの攻撃者と戦い続けていました。そこに投入されたクールズは、試合のリズムに入る間もなく広島の猛攻にさらされた。クールズのミスは、ガウルの采配がC大阪の守備を追い詰めた結果でもあります。
似ている二人、決定的に違う一点
ここまで見てきたように、ガウルとパパスの哲学は実はかなり似ています。
| ガウル | パパス | |
|---|---|---|
| 核心 | インテンシティ+ポゼッション | アタッキングフットボール |
| 前提条件 | 球際の強さが大前提 | ハードワークと強度 |
| ビルドアップ | 後方からつなぐ | ボールを大切に繋ぐ |
| 育成 | 若手育成を重視 | 実績主義(練習で示した者を使う) |
| Jリーグ経験 | 初(2026〜) | 横浜FM→鹿児島→C大阪(通算5シーズン目) |
どちらも「強度」を前提に、「攻撃的」に戦うことを求めています。ポステコグルーの横浜FMで学んだパパスと、RBライプツィヒで学んだガウル。ルーツは違いますが、たどり着いた場所は近い。
では、何が違ったのか。
この試合で決定的に差がついたのは、「修正力」です。
ガウル監督は前半の課題を「1cm、1m、ハーフメーター」と具体的に分析し、ハーフタイムに「100%のインテンシティ」を明確に要求しました。そして段階的な交代で、C大阪の守備に異なる脅威を投入し続けた。
パパス監督も試合後に「後半は広島さんが上回った。ボール保持に課題が残った」と認めています。しかし後半、広島のインテンシティが上がった中で、C大阪が流れを取り戻す手を打つ前に、ガウルの交代が先に効いた。
ガウルが「修正」して勝ち、パパスは「維持」しようとして逆転された。この差が、最終スコアに表れたのだと思います。
ガウルのもうひとつの言葉——「自分たちにとって何が大事か、良い勉強になった」
試合後のフラッシュインタビューで、ガウル監督はこんな言葉も残しています。
「試合を追うごとに良くなっている、そういう手応えはあった」
「自分たちにとって何が大事か、本当に良い勉強になった試合」
「インテンシティだったり、球際だったり、そういうところをきちっとやることができれば、必ず結果につながるし、自信を掴める」
4連敗から3連勝へ。しかもその3連勝目が、0-1からの逆転勝ち。
それでもガウル監督は「今シーズン最高の試合だったとは言えません」と冷静に振り返っています。前半のインテンシティ不足を正直に認め、次の課題として「寄せの遅れ」を挙げる。勝っても浮かれず、課題を明確にして次に向かう——38歳の若き指揮官は、試合を重ねるごとに広島に自分の色を浸透させています。
パパスの視点——「悔し過ぎる敗戦」の先にあるもの
C大阪のDF井上黎生人は試合後に「悔し過ぎる敗戦」と語りました。
前半の内容が今季ベスト級だっただけに、その悔しさは痛いほどわかります。xG 0.70でありながら先制点を奪い、前半のゲームプランは完璧に機能していました。
パパス監督は「後半は広島さんが上回った。ボール保持に課題が残った」と簡潔に振り返っています。
ポステコグルーの遺伝子を持つパパスが、このまま黙っているはずがありません。次節は神戸戦。この「悔し過ぎる敗戦」をどう糧にするのか。C大阪のこれからにも注目です。
まとめ:「監督の力」で勝った試合
この試合は、監督の力で勝った試合です。
ガウル監督のハーフタイムでの明確なメッセージ、段階的な前線3枚替え、インテンシティの引き上げ——すべてが噛み合って、86分のOGと90+3分のPKという2つのゴールが生まれました。
一方のパパス監督も、前半の設計は見事でした。「悔し過ぎる」と選手が言うほどの試合内容を、アウェイの広島相手に作り上げた手腕は評価されるべきです。
38歳のガウルと46歳のパパス。二人の外国人監督が、日本のサッカーに新しい風を吹き込んでいます。
次にこの二人が対戦するとき、パパスがどう修正してくるのか。今から楽しみです。
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